GROOVE ARCHIVE
← ロック
狂気(The Dark Side of the Moon)

ロック / プログレッシヴ・ロック · 1973

狂気(The Dark Side of the Moon)

ピンク・フロイド

The Dark Side of the Moon · Pink Floyd

この一枚を聴く理由

曲を選ぶ楽しさに、曲へたどり着く楽しさが加わる一枚。時間やお金という身近な重さが、音の距離と大きさになって迫ります。

音楽と一緒に読む

収録曲・試聴

日本語編集版

アルバムの物語

一曲が終わったと思ったら、その音が次の場面へ続いている。《狂気》では、気に入った曲だけでなく、そこへどう着くかにも耳を向けてみたくなります。遠くにあった音が近づき、ゆったりした演奏が急に部屋を満たす。高価なオーディオや専門知識がなくても、くつろいでいた気分が緊張へ変わる瞬間から入ることができます。聴く環境を整えるより先に、まず一曲の中で自分の呼吸が変わるところを探してみてもよいでしょう。

1973年3月発表。公式のアルバム紹介によると、前年1月には公の場で演奏され、5月末から録音が始まりました。精密に組み立てられたスタジオ作品であると同時に、客席の前で育った音楽でもあります。ここでは原盤の10曲を基準にしています。後年のライヴ盤や別の解釈による作品とは区別すると、曲順とつながりを追いやすくなります。

大きな音の中にある、いつもの心配

時間が足りない、お金に振り回される、他人とのあいだに線を引く。宇宙を思わせるジャケットの向こうにあるのは、案外身近な悩みです。「Time」「Money」という曲名だけでも入口になります。歌詞をすべて解読する前に、声が一人で残るような部分と、周りに音が集まってくる部分を聴き分けてみてください。同じ言葉でも、伴奏の広がり方で急いでいるようにも、孤独なようにも聞こえます。自分の一日と重なる場所は、その小さな差かもしれません。

曲の前後を切り落とさずに

「Us and Them」の広々とした感じを覚えたまま次のインストゥルメンタルへ進むと、歌がなくなっても流れは続きます。短い試聴は音色を知るには便利ですが、こうした境目を省いてしまうことがあります。好きな曲が見つかったら、配信サービスでその前後までつないでみるのも一案です。全曲を聴く義務があるからではなく、好きな場面の表情が隣の場面によって変わるかもしれないからです。途中で止めても構いません。戻ってきたときに、その直前の静けさまで思い出せたら、新しい聴きどころが見つかったということです。

発売当時から広い聴衆と出会った

長く埋もれた末に発見された作品とは違い、公式年表には米国アルバム・チャート1位、英国2位という記録があります。「Money」も米国のシングル・チャートで13位になりました。実験的な音と大きな流れが、親しみやすい歌とともに届いたことを示す接点です。ただし、その順位はすべての曲を好きになる理由ではありません。有名なプリズムをいったん忘れ、自分が覚えている一つの音の移り変わりを探すと、知っていた名盤が、自分で聴いた音楽に変わっていきます。

曲からたどるアルバム

「Time」の効果音から演奏へ移るところと、「Us and Them」で音の規模が変わるところを比べてみてください。短い試聴には、その箇所が含まれない場合があります。

  1. Time

    時計の音が鳴る有名な導入だけでなく、その後にバンドが落ち着くところまで耳を向けると印象が変わります。時間に追われる感じが、効果音から歌の歩調へ引き継がれるからです。過ぎてしまった人生を見つめる言葉も、やるべきことを先延ばしにしたら一日が終わっていた、という近い経験から受け取れます。哲学的な答えを用意する必要はありません。発売前に舞台で育った音楽という背景を知ると、音響の細工だけでなく、演奏者が一緒に進む力も気になります。一枚の流れの中では、突然の時計と落ち着いた演奏が、違う種類の緊張を作っています。試聴に時計が入っていなければ、配信の曲頭に戻ってみてください。

    参考資料 · Pink Floyd: The Dark Side of the Moon, album history and sequence
  2. Us and Them

    空間を広く空けたような部分で声を追い、周囲の音が膨らむ瞬間を待ってみてください。穏やかな曲という第一印象だけでは収まらない変化があります。題名は「私たち」と「彼ら」を分けますが、音楽はその線の前でためらうようにも聞こえます。一つの事件に限定せず、人を分ける言葉の身近さから考える余地があります。公式年表には1973年の公演にサックス奏者と追加の歌い手が参加した記録があり、四人のバンドという想像だけでは足りない音の広がりの背景になります。静かな部分で音量を上げず、次の大きな部分まで同じ設定で聴くと、録音自体が作る大きさの差を感じやすくなります。

    参考資料 · Pink Floyd: official 1973 timeline

次に聴く一枚

《ブレードランナー》へ進むと、電子音が場所と距離を感じさせる別の方法に出会えます。同じ物語の作品としてではなく、音で空間を作る二つの例として比べてみてください。

Blade Runner ↗
参考資料と編集について

日本語の読者に向けて独立して編集した記事です。作品の事実関係は下記の資料を参照し、聴きどころは編集上の解釈として記しています。AIによる編集・検査を実施しており、第三者の読者による実査ではありません。