GROOVE ARCHIVE
← ソウル / R&B
トーキング・ブック

ソウル / R&B / シンガーソングライター・ソウル · 1972

トーキング・ブック

スティーヴィー・ワンダー

Talking Book · Stevie Wonder

この一枚を聴く理由

打楽器のような鍵盤と複雑な愛の歌が、一人の音楽家の違う表情を引き出す。

音楽と一緒に読む

収録曲・試聴

日本語編集版

アルバムの物語

You Are the Sunshine of My Lifeの柔らかな始まりのあとに、七分近いMaybe Your Babyが置かれる。Talking Bookでは愛を歌う声がいつも安らかとは限らない。スティーヴィー・ワンダーの鍵盤も、旋律を温かく包む時と、Superstitionで鋭くリズムへ入り込む時で役目を変える。同じ手から生まれる温度の違いが、一枚の奥行きを作る。

1972年、同年のMusic of My Mindに続いて発表された十曲の作品。ワンダーが制作と歌の中心を担い、ロバート・マーグレフとマルコム・セシルが共同制作の補佐とエンジニアリングに参加した。多くの楽器を自分で演奏することが重要でも、他人の声やギターまで消した独奏作ではない。細かく組み立てられた録音の中に、相手のいるやり取りが残っている。

鍵盤ごとの役割

冒頭のローズ・ピアノと六曲目のクラヴィネットは、ともに鍵盤楽器でありながら異なる役目を果たす。一方は旋律の下に温かい幅を作り、もう一方はリズムの輪郭を細かく刻む。マーグレフは本人へのインタビューで、ワンダーが楽器の間を移動しやすいよう準備していたと回想した。電子楽器を新しさの飾りとしてではなく、手と身体で扱う表現の道具と考える手がかりになる話だ。音色の数を数えるより、各楽器が歌の形をどう変えるかに注意したい。

長さが残す感情

Maybe Your Babyは約6分51秒で、この作品の最長曲。続くYou and IとTuesday Heartbreakで規模が変わり、A面の最後には五分近いYou’ve Got It Bad Girlが来る。明るい歌と暗い歌を交互に並べた、という説明だけでは収まらない。短い冒頭の親しみやすさのあとで、別の感情に長く留まる時間を作っているからだ。一曲の長さが、関係の中にある疑いや思いを簡単に通り過ぎさせない働きを持つ。

ギターが加える返事

B面はSuperstitionの強いリズムで始まり、Big Brother、Blame It On the Sunを経て別の温度へ進む。九曲目Lookin’ for Another Pure Loveではジェフ・ベックのギターが参加する。ゲストのための独立した見せ場というより、声の句へ違う質感で答える演奏として聴きたい。次のI Believeが原盤を閉じるため、このギターの場面も終盤の流れを作る一部になる。多重録音で細かく構成された世界だからこそ、他人のフレーズが入る場所の大きさも際立つ。

曲からたどるアルバム

冒頭のローズ、B面冒頭のクラヴィネット、終盤のギターの応答を比べる。

  1. Superstition

    原盤B面を開く六曲目で、約4分26秒のアルバム版。クラヴィネットを歌の伴奏鍵盤としてだけでなく、リズムを組み立てる一部として聴くと、強い印象の理由が見えてくる。マーグレフはワンダーがドラムを録ったあと、クラヴィネットのパートを加えたと回想している。機械の自動反復ではなく、異なる演奏が重なって動きを作る場面として捉えられる。聞き慣れた歌が入っても、楽器間の小さな隙間と応答を追いたい。A面の長い曲を経てこの位置へ来ると、後半を新しく始める働きも明確になる。ベックに関する複数の回想とは分け、ここではワンダーの原作スタジオ録音を選んでいる。

    参考資料 · Robert Margouleff — direct interview with Bob Lefsetz, published transcript
  2. Lookin' for Another Pure Love

    九曲目、約4分44秒の歌。ジェフ・ベックのギター参加はレーベル資料でも確認できる。技巧を別枠で披露するのではなく、ワンダーの歌が作った句へ違う音色の返事を置くところに耳を向けたい。ギターが前へ出ても、長い呼吸の中心には歌が残る。前のBlame It On the Sunと、次のI Believeを含めて聴けば、ゲスト紹介の挿入曲というより終盤の感情をつなぐ位置にあることが分かる。Superstitionの細かな噛み合わせと比べると、こちらでは楽器の長い線が動ける余白が目立つ。緻密な多重録音の中へ、他人の演奏が入って生まれるゆとりを感じられる一曲だ。

    参考資料 · Universal Music Japan — Talking Book reissue, Jeff Beck participation on Another Pure Love

次に聴く一枚

同年の先行作Music of My Mindへ。演奏を重ねる方法と、一曲に与える時間の違いを比べたい。

Music of My Mind ↗
参考資料と編集について

日本語の読者に向けて独立して編集した記事です。作品の事実関係は下記の資料を参照し、聴きどころは編集上の解釈として記しています。AIによる編集・検査を実施しており、第三者の読者による実査ではありません。