日本の音楽 / 電子音楽・テクノポップ · 1978
千のナイフ
坂本龍一
この一枚を聴く理由
精密な反復の格子から、長い旋律や演奏の身振りが別の速度で伸びていく。
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収録曲・試聴
日本語編集版
アルバムの物語
短い音が精密にかみ合ったかと思うと、長い旋律やギターの動きがその格子の外へ伸びる。坂本龍一の《千のナイフ》は、電子音が人の演奏を消すレコードではない。反復する土台と、その上を違う長さで動く線を一緒に聴くと、異なる速度の思考が同じ空間にあるような面白さが生まれる。
1978年にBETTER DAYSから発表した初のソロ・アルバムで、記憶の記録LIBRARYは原盤の発売日を十月二十五日と記す。坂本が制作、作曲、編曲、演奏を担い、松武秀樹がコンピューター操作とシンセサイザーのプログラミングを補助した。ただし、全楽器を坂本一人で演奏したわけではない。渡辺香津美のギターや高橋悠治のピアノなど、ゲストが曲ごとに異なる関係を作る。
六曲が作る違う部屋
長い表題曲の後の「ISLAND OF WOODS」は、題名を風景の正解にするより、音の距離や重なりに耳を向けてみよう。続く「GRASSHOPPERS」では二台のピアノの関係が前へ出る。最初の三曲だけでも、一種類の電子リズムが続く盤という予想から離れる。後半の長いドイツ語題の曲と「PLASTIC BAMBOO」を経て「THE END OF ASIA」へ進むと、反復と旋律の重みがまた変わる。長さが近くても、同じ形式とは限らない。
機械と手を分けない
反復が正確だからといって、音楽が自動で完成したとは言えない。生の楽器が現れたから急に別世界へ移るわけでもない。一定間隔の音を一つ選び、その上で長く続いたり違う区切りを持ったりする線を追ってみよう。並ぶ層の差が動きを生む。音の立ち上がりだけでなく、消えるまでの時間にも注目すると、同じ拍の上にある違いを捉えやすい。公式クレジットには電子楽器だけでなく、小さな打楽器やピアノも具体的に記される。有名な参加者を全員当てる遊びより、音が何を担当するかを考える手がかりにしたい。
最初の一枚として聴く
後の経歴の予告編としてだけ聴くと、六曲の違いが小さく見えてしまう。ここでは1978年に個人名義でまとめられた独立した構成に集中する。リンク先のApple版はEP表記だが、レーベルと原盤資料はアルバムとして扱い、六曲の順序も一致する。配信上の分類が元のLPの性格を変えるわけではない。後年のピアノ再演やYMOの演奏とも区別したい。最初は覚えやすい旋律を追い、二度目には下の反復を選んで聴くと、同じ録音が違う奥行きを持って広がる。一曲ごとに注意の置き場所を選び直すことが、この盤への入り口になる。
曲からたどるアルバム
規則的な層を一つ選び、その上を違う長さで動く旋律や演奏を追う。
THOUSAND KNIVES
長い冒頭曲では、旋律が現れ、その周囲の動きが変わる過程をゆっくり辿ろう。全体の形を先に覚えるより、短い反復を一つ基準にするとよい。長い線が入ると、土台と前景の速度の差が聞こえてくる。公式クレジットは渡辺香津美のギター・ソロ、浜口茂外也のシン・ドラム、細野晴臣のフィンガーシンバルを挙げる。未知の音をすべて一台のシンセサイザーへ帰さないための情報だ。名前から楽器を無理に当てるより、音が前へ出て退く瞬間を感じたい。後の別アレンジではなく、原盤の約九分三十四秒の演奏を、一つの長い入口として受け取ってみよう。
参考資料 · Nippon Columbia: six-track album and guest creditsGRASSHOPPERS
前の長い電子音の空間を経て二台のピアノが出会うと、音が始まり消える感覚が変わる。日本コロムビアは高橋悠治と坂本のピアノ・デュオと明記する。一人がすべて重ねた音と推測せず、二つの演奏の関係を聴く曲として近づこう。短い音がかみ合うところと、違う方向へ散るようなところを交互に探すとよい。題名がバッタを指すからといって、全ての動きを動物の描写に固定する必要はない。音の長さと間隔だけでも十分な手がかりになる。三曲目として前後の音色と比べると、ピアノは休憩用の飾りではなく、注意を組み立てる別の方法を示す中心として聞こえる。
参考資料 · Nippon Columbia: six-track album and guest credits
次に聴く一枚
YMOのSolid State Survivorと、個人名義の六曲構成とグループの電子ポップが反復を扱う違いを比べたい。
Solid State Survivor ↗参考資料と編集について
日本語の読者に向けて独立して編集した記事です。作品の事実関係は下記の資料を参照し、聴きどころは編集上の解釈として記しています。AIによる編集・検査を実施しており、第三者の読者による実査ではありません。